ピアノの鍵盤の重さ。
それは、演奏者にとって想像以上に大切な要素だ。
同じ曲を弾いても、「あれ、なんか今日しんどい……」と思ったことはないだろうか?それ、もしかしたら鍵盤の重さのせいかもしれない。
この記事では、カワイ、ヤマハ、スタインウェイ、ファツィオリなどの代表的なピアノメーカーの鍵盤のタッチについて、私自身の実感も交えながら、比較・考察してみたい。
カワイ:アップライトは軽すぎる? でもグランドは別物
まずはカワイから。
個人的に、カワイのアップライトピアノの鍵盤は非常に軽いと感じる。小さな子どもが最初に触るにはありがたいが、大人がしっかり音楽的に表現しようとすると、物足りなさを覚えることがある。
しかし、誤解してはいけない。カワイのグランドピアノはむしろ“しっかり重い”。特にShigeru Kawaiシリーズなどは、海外のコンクールにも導入されるほどの品質で、タッチの深みと重量感のバランスが非常に良い。
カワイ=軽い、と思い込むと、グランドに触れたときに「えっ、重!」と驚くかもしれない。アップライトとグランドで印象が真逆になるメーカーの代表例である。
ヤマハ:重めタッチの王道。特に最近のグランドはガッシリ系
次にヤマハ。
昔から「ヤマハは堅牢で均一な鍵盤」と言われてきたが、近年のグランドピアノ(特にCシリーズ以降)は、明確に“重め”の傾向がある。手応えがあり、スピード感よりもコントロール重視の設計だ。
音大の練習室や試験会場でもヤマハのグランドは多く使われており、「重いけど、だからこそ鍛えられる」と学生の中ではむしろ好評なことも。
アップライトもカワイに比べれば明らかにしっかりしており、特にUシリーズなどは指にある程度の負荷がかかる設計。打鍵の強弱を意識しやすい反面、「ちょっとしんどい」と感じる人もいるだろう。
スタインウェイ:重い?軽い?それはモデルと年代による
世界の舞台を席巻するSteinway & Sons(スタインウェイ)。
一言で言えば、「重めだが、スムーズ」というタッチ感がある。重量自体はあるが、アクションの精度が高いため“重さに逆らわない”操作感が特徴だ。
ただし、注意したいのは、モデルや製造年代によってかなり差があるという点。たとえば、ドイツ製とアメリカ製では微妙なタッチの差があり、また、古い個体はアクションのメンテ状況によって「えっ、これがスタインウェイ?」と思うような重さや鈍さもある。
鍵盤の重さという意味では「絶妙な緊張感とコントロール性」を求める中・上級者には理想的なピアノかもしれない。
ファツィオリ:軽やかなのに重厚、異次元のバランス
Fazioli(ファツィオリ)は、まだ日本ではなじみの浅いブランドかもしれないが、クラシックの世界では急速に評価を高めている。
そのタッチ感は一言でいうと、「重さを感じないのに芯がある」という不思議な体験。アクションの精度が極めて高いため、わずかな力で音が出るにもかかわらず、フォルテッシモの表現にも耐える構造になっている。
「軽いから簡単」という意味では決してなく、上級者ほどその軽さの中に無限のニュアンスを見つけられるピアノだ。現代の音楽家が求める“レスポンスの速さと奥行き”を両立した設計といえる。
鍵盤の重さに“正解”はあるのか?
結論から言えば、「ちょうどいい重さ」は人によって異なる。
軽すぎればコントロールが難しくなるし、重すぎれば長時間の練習が辛くなる。
また、同じメーカーでもアップライトとグランド、モデルや製造年代によってまったく印象が違うということも忘れてはならない。
比較まとめ(ざっくり印象)
メーカー | タッチ感の印象 | 備考 |
---|---|---|
カワイ | アップライト:かなり軽い/グランド:重め | アップライトとグランドで大きく違う |
ヤマハ | 全体的にしっかり重め | 安定性高く、鍛錬向き |
スタインウェイ | 重いけどスムーズ、モデルによる | 世界標準、だが個体差に注意 |
ファツィオリ | 軽やかで高精度 | 上級者向けの繊細なタッチ |
最後に:ピアノ選びにおいて大事なのは「自分の手と相談する」こと
ピアノは“音”で選ばれることが多いが、“手触り”こそが演奏者の身体と音楽をつなぐ架け橋になる。
どんなに素晴らしい音でも、自分の手に合わない鍵盤では、真のパフォーマンスは発揮できない。
楽器店に行ったら、ぜひ目を閉じて「手で弾く感触」そのものに意識を向けてみてほしい。その感覚こそが、あなたとピアノをつなぐ最初のシグナルだから。
0件のコメント