目次
- はじめに
- 「音が重なる」「音がにごる」とは?
- 【初級編】基礎から学ぶ:音をきれいに分離するための考え方
- 【中級編】ペダル・和音・声部の分離と意識の使い方
- 【上級編】演奏中に脳内で分けるトレーニング方法
- 初心者でもできる音量コントロール練習メニュー
- 練習におすすめの教材と曲
- まとめ
1. はじめに
「自分で弾いているときはきれいだと思ったのに、録音を聴いたら音がにごっている…」
「和音を押さえているだけのはずなのに、何のメロディかわからない…」
ピアノや多声音楽を演奏する人の多くがぶつかる悩み、それが**“音の分離”の問題**です。
今回は、「音と音が重なって聞こえる」「メロディが埋もれてしまう」問題に対し、レベル別に具体的な解決法を紹介します。
2. 「音が重なる」「音がにごる」とは?
演奏で「音が重なって聞こえる」とは、本来聞かせたいメロディーや声部がほかの音に埋もれてしまう現象を指します。
代表的な症状:
- 左手の伴奏が大きくて右手の旋律が聞こえない
- 和音を弾くとすべての音がベチャっと混ざる
- ペダルを使った途端に音がもやもやする
- 一番上の音が聞こえず、中間の音ばかり目立つ
原因の多くは、「音を同じように扱ってしまっていること」です。
3. 【初級編】音の分離を覚えるための第一歩
■ まずは「メロディだけを弾く」練習
初心者がまずやるべきことは、何を主役にするかを決めて、それだけを弾くことです。
例:右手で「ドミソ」、その中の「ソ」がメロディーの場合
- 最初は「ソ」だけを弾いて、音の位置と音量の感覚をつかむ。
- 次に「ドミソ」を弾きながら「ソ」だけを強く(音の芯をもって)弾く。
これを「主役の声を太くする練習」と呼びます。
■ 練習例(右手和音):
- 和音「ドミソ」を弾く
- 「ソ」だけを強調(他の指は軽く)
- 「ソ」だけを抜き出して弾いて確認
- 再び和音を弾き、意識して「ソ」を際立たせる
このように、最初から全部を弾かない・弾き分ける感覚を養うことが大切です。
4. 【中級編】ペダルと音量の使い分けで分離する
■ ペダルがにごりの原因になる
ペダルを踏みすぎると、どんなに丁寧に弾いても音が混ざってにごります。
対策:
- ペダルを「全踏み」ではなく「半踏み」「瞬間踏み(リズムごとに浮かせる)」に切り替える
- 主役の音だけを響かせる意識で踏む(例:和音の一番上の音を残す感覚)
■ 左手と右手の音量差を意識する
メロディーは多くの場合、右手の高音域にあります。
左手の伴奏が大きすぎると、メロディーが消えてしまいます。
練習法:
- 左手だけで弾いてみて、「限界まで小さい音」で弾けるか試す
- 右手だけで弾いて、はっきりした輪郭のある音を出す
- 両手で合わせるときは「左手はささやき、右手は歌う」
5. 【上級編】脳内で声部を“別人扱い”する
■ 聴覚イメージの分離
上級者になると、音を物理的に分けるだけでなく、頭の中でも分けることが必要です。
たとえばバッハの3声インヴェンション:
- メロディー(上声)
- 中声(対旋律)
- 低音(ベースライン)
この3つを別の“キャラ”として演奏する意識を持つと、分離が劇的に改善されます。
■ 脳内シミュレーション練習
- 楽譜を見ながら、3つのパートそれぞれに「声・性格・感情」を与える
- それぞれの声部だけを歌ってみる(ピアノなし)
- 実際の演奏で「上声=朗々と歌う」「中声=内声の語り」「低音=支え」として意識して弾く
この方法は、頭の中で同時に複数の世界を描く訓練になります。
6. 初心者でもできる音量コントロール練習メニュー
音の分離を良くするためには、「音量(ダイナミクス)」を細かくコントロールできることがとても重要です。
初心者でも取り組みやすい、具体的な音量練習メニューを紹介します!
■ 音量コントロール練習① 【単音編】
やること:
- 1つの音だけを、ささやくように小さく弾く
- 次に、はっきり大きく弾く
- これを交互に10回ずつ
ポイント:
- 小さな音も鍵盤にしっかりタッチする(浅い叩きではなく、支える感じで)
- 大きな音でも手をガチガチにしない
例: ド → 小さく → ド → 大きく → 繰り返し
■ 音量コントロール練習② 【和音編】
やること:
- 右手で「ドミソ」を同時に弾く
- 「ソ」だけ大きく、それ以外は小さく弾き分ける
ポイント:
- 鍵盤に指を置いた時点で、どの指を強く・弱くするか意識する
- 音を出す瞬間だけでなく、鍵盤に乗る段階から意図を持つ
■ 音量コントロール練習③ 【両手バランス編】
やること:
- 右手でドのメロディー(単音)、左手でドミソ(和音)を弾く
- 右手を主役にして、左手をできるだけ小さく
ポイント:
- 左手の和音が「背景音」になるくらいの意識
- 右手メロディーは、輪郭を持たせて歌うように
【初心者向けワンポイントアドバイス】
- 音を出す前に「主役」を決める
(今は右手?左手?どの音?) - 小さく弾く=力を抜く、ではない!
(支えながら柔らかく) - どんな小さな練習でも録音して客観的に聴く
(意外と感覚と現実はズレていることが多い)
この基礎力をつけると、どんな曲でも音の分離が自然にできるようになります!
7. まとめ
音が重なってにごるのは、「うまく弾けない」のではなく、「どう聴かせるか」が未整理なだけです。
音の分離は、“物理的なコントロール”と“頭の中の整理”の両立が重要です。
演奏するすべての音に役割があり、それを明確に区別して弾けるようになれば、音楽の立体感は一気に変わります。
今日から、「ただ弾く」のではなく、「聴かせたい音を意識して弾く」ことから始めてみましょう!
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